『名前のない女たち』

テアトル新宿佐藤寿保監督『名前のない女たち』。

企画AV女優の赤裸々な日々・・・という触れ込みの映画だけど、決して魔窟へと赴く女の子の物語ではなくて、普通に生きていて、普通に閉塞感がバリバリあって、でも普通にやる気もあるし、泣いちゃったりもする、つまりは本当に「普通の」生活についての映画だった。特別な物語じゃない。俺も毎日サラリーマンのコスプレして演じているだけのヘボ男優かもしれない。

コスプレ女優の「ルル」に変身して居場所を見つけようとする純子と、AVの生活にもイライラしっぱなしの綾乃の関係は鏡写し、陽と陰と言うよりは、過去と未来の像だ。だけど、「使い捨てにされるだけ」の存在を冷徹に切り取るんじゃなくて、カメラが写すのはかけがえのない二人が重なった瞬間だった。

甘ったるい感傷ではなくて、静かに二人に寄りそうような、でもちゃんと痛みも狂気も堕ちることも映画に描かれている。二人が静かに眠るシーンに切なくなる。

なんか、映画を見ていたら、渋谷を歩くルルの姿の撮影風景をこの春頃に見たような気がしてしまった。本当の記憶か、映画が捏造した記憶なのか、それは分からない。