「ライブテープ」

3日。吉祥寺バウスシアター松江哲明監督作品「ライブテープ」

昨年夏のオールナイトイベントでのスニーク・プレビュー、東京国際映画祭での上映と既に2回観ているが、正月に、しかも吉祥寺バウスシアターでやるとなれば、なんとしても観なければという思いにかられて行った。

やはり吉祥寺で、しかも正月に(3日だったけど)観るこの映画というのは特別な感慨があった。

この日、この時間、この場所、このメンツというのは2度とない奇跡だということ。それは2009年の元旦にこの映画を作った出演者やスタッフの人たちにとっては勿論そうだろうが、偶然に映りこむ吉祥寺の街を歩くたくさんの人々も、そしてこの映画を観ている我々も、同じように、この日、この時間、この場所、このメンツという奇跡の中を生きているのだ。そのことを74分の映画体験の中で噛み締める。「天気予報」の瞬間に、わかってはいても泣いてしまう。

美しい街を、美しい世界を、ドラマを積み上げて、巨大なセットを組み上げて、CGを駆使して、そうやって世界を作り上げる映画もあるし、そうやって作られた素晴らしい作品は沢山ある。だが「ライブテープ」は、歌いながら街を歩く前野健太の姿と、その「歌」の力だけで、幾多の想像力やお金が作り上げた世界よりも美しい街と世界を描いてしまった。

これからも、吉祥寺を、渋谷を、新宿を、中野を、目黒を、その他多くの東京の空の下を歩くだろう。その時に、世界がとても汚く見えたとしても、そこに音楽と、音楽を美しいと思う自分がいれば、汚い世界を超えていけるような気がする。2010年をこの映画ではじめることが出来て良かった。