「高麗葬」

木曜日。シネマート六本木でキム・ギヨン特集上映「高麗葬」。

1963年の作品。近年になって復元されたものの、20分程映像の欠落のあるかたちでの上映。しかしこれはとんでもない傑作だった。

姥捨山のお話なんだけど、ディザスタームービーと言っていいほど、人が死に追いやられて行く(飢饉で!)が描写が執拗で、とにかく誰ひとり幸せそうな人は出て来ない。そしてあまりにも寓話的な舞台装置/登場人物で半世紀ほどの時間を描くというガルシア・マルケス百年の孤独」的展開。悪い十人兄弟、首縊りの樹、毒蛇、足が不自由になる主人公、唖の嫁、強姦、痘痕の幼女、雨乞いの生贄、そして姥捨て・・・・いったい何を読み取れと言うのか?と混乱するほどの不気味で妖しさに満ちた物語。

おそらくほとんどがセットでの撮影で、まるで舞台のように狭い空間だなと思っていたら、突如として広大で立派な姥捨て山が登場したりして面食らう。しかしその唐突さや、ちゃちさを含めて、全体を覆う濃密な物語の力に圧倒されてしまった。

主人公グリョンの一代記として観ると、愛するものたちを次々に失い続ける人生で、涙も枯れ果てるような過酷な運命だ。しかし最後に彼が到達するのは、そいういった運命への怒りと抵抗。そしてそれでも持ち続ける未来への希望。ラストはあまりにも力強かった。とんでもない映画を観た、と思った。