「スペル」

ああ、書くのが追いつかない。先週の木曜日。渋東シネタワーでサム・ライミ「スペル」。レイトショー料金で1200円。

冒頭、ババーッンッ!と"DRAG ME TO HELL"のタイトルが出るところで既にカッコいい。禍々しくて、でもどこか間抜けで、怖いけどもこれは作り物の怖さだ、と完璧に理解した上で、それでもドキドキしたり笑ったりしながら、三日間が過ぎていく。そして90分でビシッと決まる。最初から最後まで怖くて気持ち悪くて楽しい。子供の頃、タイトルも覚えていないような映画でドキドキしたときのことを思い出すような映画だった。入れ歯の匂いがしそうな、沸き立つ臨場感。

ある程度は類型的でありながら、微妙にズラしがあってそこに魅せられてしまう登場人物たち。元デブという設定だけで、それなりに上昇志向があって、それなりの彼氏がいて、それなりに可愛くて優しい彼女の性格に、なんらかのひっかかりが生まれる。その「ひっかかり」が物語をドライブさせる。老婆は彼女が引き寄せる悪魔的なるものへの媒介に過ぎない。彼女には、そして我々にも、悪魔をひきよせる必然が確かにあるのだ。それは普段は隠れているだけ。

あと、映像は反倫理的なゲロゲロのオンパレードで拍手喝采だったが、物語自体は倫理的であるのがこういうホラーの特徴で、この物語もやはり倫理的だった。主人公は表面的には倫理を守っているが、そもそもの初めの時点で・・・という話だから。

しかし冒頭の痛快過ぎるドツキ合いから、グダグダな降霊会まで、全部が嘘っぽくて、子供騙しなのに、いい歳したオッサンが心ときめいてしまうのはなぜだろう。物語の持つ底知れぬ力を感じる。そして映画を見ながら「オエーッ」って席で身をよじったり、ひゃひゃと声を出して笑ったりするのはとてもいいものだ。うん、まさに地獄に引きづり込んでくれる映画だったな。