「日本暗殺秘録」

シネマヴェーラ妄執、異形の人々IV

1969年公開。監督:中島貞夫「日本暗殺秘録」。

桜田門外の変から二・二六事件までのテロ事件が次々と登場する。特に血盟団事件の小沼正の姿から、貧困にあえぐ庶民がテロリストになっていく過程がシンパシーを持って描かれている。当時の自民党幹事長が東映大川博社長に「上映中止してくれ」と要請したという問題作であり、未だにソフト化されていない

30日の総選挙の日にも上映していたこの映画。木曜日に見に行った。まさに現代に通じるテロリズムについての映画。テロから善良なみんなを守るヒーローの物語(「24」とか)もいいけど、映画というのは徹底してその「悪」にもカメラを向けるべきだと思うのだけど、まさにこの映画は、徹底して「テロリズムが生まれる」という事実から目を背けない。

千葉真一演じる小沼正は主席で小学校を卒業するも、貧乏で中学に行けずに、東京で奉公人生活。ワーキングプアな生活の中で頼みの社長は事業に失敗し、体も壊して実家でプータロー。貧乏人はとことん報われず、金がないばかりに悲惨に死んでいく。恋した藤純子*1もカフェでタバコをくゆらす夢も希望もない女給さんに。真面目な小沼は、カリスマ和尚(片岡千恵蔵)に心酔し、テロリストへの道を歩む・・・というストーリーが中心。あとの暗殺シーンはダイジェストだらけだが、これが全て暗殺者側が大スター(菅原文太若山富三郎高倉健鶴田浩二・・・)なのだから東映恐るべし。

1969年という年を考えると、当時に学生たちにも武力闘争、自己犠牲というヒロイズムを植え付けた映画なのかもしれない。あと、そういえば若松孝二監督が「山口二矢」の映画を作るって言ってなあと思い出した。1969年と2009年。40年経って、今の日本はテロリズムの内部化とも言える「自殺」に向かっているように思える。

*1:現在公開中のサマーウォーズでは政財界にパイプのある凄いおばあちゃん役だけど、40年前は真逆の堕ちて行く女を演じていたのか・・と思う