「松江哲明セレクションオールナイト」

biwacovic2009-08-10

8月8日の土曜日。「あんにょん由美香」大ヒット記念ということで開催された「松江哲明セレクションオールナイト」のイベント。昼頃に整理券をとった時点で既に整理番号が50番を超えていたので、あーこれは満員になるな・・と思ったのだけど、案の定100人越えの満員で通路に座って鑑賞する人も出るほどの盛況だった。

「OLの愛汁 ラブジュース」

ずっと見たかったピンクの名作。春にシアターイメージフォーラムでピンク映画の特集上映があった際も見逃したので、是非とも見たかった。

久保田あづみという女優さんがとても奇麗で、佐藤幹雄演じるタカオはいかにも美大あたりにいそうな厭世的な男。

主人公の二人の会話は、いつも本心を微妙にずらしながら行われる。セックスの最中だけが、その二人の言葉が交差する場所で、しかもそのような場所においてさえも、やはり言葉は微妙なすれ違いを見せる。だから二人は延々とそんな行為を繰返す。この状態がずっと続けばいいのに、などという気恥ずかしい言葉さえ吐きながら、それでもいつかは来るであろう終わりを感じながら。

駅の階段のシーンが素晴らしくて、一瞬だけ何かが起きそうな、でもそれが起きたら全て終わってしまうような、言葉はひとつもなくて緊張感だけが画面にみなぎる。夏の夜中に映画館で映画を見てるんだけど、その瞬間だけ自分が駅の階段にいるような気持ちになった。今まで見たピンク映画の中で一番好きかもしれないくらい。

「双子でDON!」

双子が撮影の最中に入れ替わったら、果たして男優は気付くのか?という作品。AVをこんな風に映画館で、しかも男も女もみんなで笑いながら見るというのは一体どういう事態なのか?と思うが、面白いんだからしょうがない。

最後は本当に彼女がこの撮影が「家族みたい」で嬉しいと思ったから流した涙なのか、それとも家族みたいなあったかさと、何か自分の中で葛藤するものがあって流した涙なのか、そのあたりがどちらにも解釈出来るような感じで、バカバカしい笑いだけじゃなくてなんとなくひっかかる余韻があって良かった。花岡じったも「自分はこういう家族みたいな感じと無縁だ」と言っていて、そうやって他人同士が出会って、そしてすぐに撮影して、そして別れるという一日を想像して、それは楽しくて、そして寂しいものだろうなと思った。

あと未見の「セキ☆ララ」も見なければ。

「家族ケチャップ」

37分間の爆弾と言ってもいい、とんでもないドキュメンタリー。「ゆきゆきて、神軍」を思い出す。ただし、圧倒的な不愉快で高圧力なシーンは、唐突なインサートや、主人公の破壊力のあるナレーションや表情によって、なぜか本当の不愉快感にまで至らない。しかしそもそも「家族」に関する不快感その他諸々の感情はこのように多義的であり、一つの文脈によって処理することが出来ないものなのだと思い知る。

もしこれから先、家族の問題で困難にぶつかった時は、特設リング上でわらべの「もしも明日が」を歌う家族を思い出そうと思う。

「ライブテープ」

松江哲明最新作。もちろん一般の観客が見るのはこの日が初めて。

これは74分間の美しい一つの「うた」だ。こんな映画は見た事がない。そもそも松江監督を知ったきっかけというのが豊田道倫「グッバイ・メロディー」のビデオなのだけど、あえて言うならあの映像の世界がもっと生々しく迫ってくる感じ。一つだけのカメラが、いっさいのカットを受け付けずに全てを記録する。

絵的には全然似ていないのに、なぜかドアーズの「Strange Days」のジャケットを思い出した。歌う男。カメラはそれに着いて行く。正月の風景に、多くの人がうつる。表情がわかる人もいれば、わからない人もいる。ふらりと横道に入ると、そこには二弧を持つ男がいる。駅を抜けると、そこにはサックス。そして公園に向かう・・・あまり多くを書くのはやめようと思う。明らかにこれは劇場で見るべき映画だし、本当にちゃんと劇場で公開されることも決まったようなので。

あと、歌の合間に「前野さん、えーとですね」と話かける松江監督が何かに似ている、と思ったら「水曜どうでしょう」の藤村ディレクターだった。「あのー、大泉さん」と彼もカメラに映らない位置から出演者に演出?をする。演出はいつしか会話になって、その間も旅は続いていて、気付いたら我々はどうでしょう班と一緒に旅をしているような気になる。それにも似た感覚があった。

最後は泣いた。ドラマでなく、真実でもなく、嘘でもなく、主義主張でもなく、歌と、空と、夕日の光に泣く。映画館を出ると、夏の朝の曇り空。

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