アキレスと亀

テアトル新宿で「アキレスと亀」。

「夢を追いかける夫婦の物語」みたいな宣伝をしているから、ちょっとそれはキツいなーと思っていたら全然違う映画だった。売れない、食っていけないのに夢を追い続けるとはどういくことなのかを、なんとも残酷に、しかも愛情も見せながら描いた作品で、僕は近年の北野武作品にはもうまったく興味がなくなってしまって、全然見ていないのだけど、これはちょっと「キッズ・リターン」の頃を思い出したりした。あとラスト近くの車のシーンは「ソナチネ」を思い出した。ただ「ソナチネ」と違ってそこで終わらないのが、まさに生き残ってしまった者の映画として正しい気がする。

まるで戦争映画のように、次々と登場人物たちが死んでゆく。死ねないのは主人公だけ。生き残った人間にはその視点しかないのだから、非常に正しい。死んで行く人たちのことは分からない。成功がなんなのかわからない。評価されるとは何なのか分からない。真似をすること、独創の違いがわからない。おそらくは芸人ビートたけしが見て来たであろう、多くの失敗の物語を、決して美化したりせずに、戯画的に描くとこういう映画になるのだろう。最終的に「二人でいれば大丈夫」というのが唯一の救いなのはあまりにも普通の結論だが、多くの人の共感を得るにはそれしかないのかもしれない。だけど「多くの人」はもう人の死すらアートにしようとする狂気の時点で「共感」からは離れてしまっていると思う。

だから僕の解釈は、この映画のラストの救急車以降は全て夢、だと思うことにする。よくわからないけど、その方が気が楽だ。

本当の孤独は人を死に追いやる。その冷徹な現実に、色を塗ったり音をつけたりして、賑やかにするのが「芸術」の役割であり、こういうタイプの映画の目指すところなんだと思う。