車谷長吉『飆風』

飆風 (文春文庫)

飆風 (文春文庫)

こうなったら手に入る本をかたっぱしから読んでやろうと思っている車谷長吉。3編の小説と『私の小説論』という講演が収録された『飆風』。フジロックに行く新幹線の中で読み終わった。

一番面白かったのは『密告(たれこみ)』。映画にしたらめっぽう面白くなりそうな、二人の男と女たちと、金やら名誉やら、人間の持つイヤらしさがギッシリ詰まった玉手箱のような短編。

私の感性はと言えば、日がな一日、へたな長唄三味線を掻き鳴らしては喜んでいる男、口先ばかり、義理は立ててもお義理は立てぬと息まいて見たり、親切の押し売りに至っては日常茶飯のこと、のみならず、何事にも知ったかぶりして、節はなく、時には般若心経の章句などしたり顔してうそぶいて見せる、という風な具合で、それよりも何よりも、このように「分かってちょうだい!」式のふざけた自己宣伝をやらかして見たり、「さらば、不潔な純血主義よ!」という風な、見栄の皮が突っ張った、逆説を弄んでは、独り悦に入っている、というのが本当の私の姿でしょう。

たまらん言い回しの連続。見事なフロウ。