伊藤計劃『ハーモニー』

ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

ずっと前に買ったのだけど、未読のままだった。最近文庫版まで発売されてしまったので、そろそろ読まねばと思ってページをめくった。

HTMLを模したEmotion-in-text Markup Launguageで丹念にマークアップされたテキストは整然としていて、これは横書きで本になっても良かったんじゃないかと思うくらい。お面白くてあっという間に読んでしまった。

虐殺器官』のその先は、20世紀のSFの行き着くところとほぼ同じだったのかもしれない。人類の完璧なハーモニー、それは人間の「意志」とか「個」の行き着くところを明確に指し示す。

自由は不自由なしでは成立しないように。

共感は断絶なしでは成立しないように。

つまりはそういうことだ。不快を拒絶するのであれば、快を捨てよ。死を拒絶するのであれば、生を諦めよ。それを描ききった作者は、この小説が出版されてからほどなく、34歳でこの世を去った。だけど伊藤計劃という一人の人間が描いた未来は、小説という古めかしくも魅惑的な方法で多くのノイズとエラーを含みながら大量にコピーされて、世界中に散らばっていくだろう。そのことに静かに興奮する。