『ヒーローショー』

6月1日。シアターN渋谷で『ヒーローショー』。

90分くらいのバイオレンス&青春ものかと思っていたら、135分もあって、しかもバイオレンスも青春もあくまで副次的な素材に過ぎないという、恐ろしいほどに引き込まれる作品だった。

これはオススメですよーとか安易に言えないし、嫌な人にはとにかくいやーな映画だろうし、別に絶望の中に希望が・・・って映画でもないし、でも俺にとっては素晴らしいとしか言えない映画だったのだ。

以下、未見の方はご注意を。

ジャルジャルの二人がとってもいい。しかし全然笑いはない。女性もいい。エロいしかわいいし、血の通った人間として男たちと共に生きている。

それ以外の役者たちもいい。いいと言うか怖い。とにかく怖い。ゾンビも宇宙人も殺人鬼も戦争も怖いが、俺にとってのリアルな恐怖はあのヤンキーたちだ。挨拶代わりに軽く殴る真似したり、威嚇するようにデカイ声で笑ったり、じっと目を見て来たり、まばたきしなかったり、口をくちゃくちゃやってたり、あの怖さ。高校生くらいまではそれが一番身近な恐怖だったし、大人になった今でもオヤジ狩りされたらどうしようと思ったりするくらい怖い。

そういう怖い人たちが、しょうもない理由からメンツだとなんか言ってるうちに引き返せないところまで行ってしまう、引っ込みがつかないというのは正にこのことだろう・・・という展開で映画は進む。完全に巻き込まれた形のジャルジャル福徳の視点で映画が進むと思いきや、映画はもう一人ジャルジャル後藤の物語も語り始める。

どんづまり。やることがない。やりたいこともない。ここは嫌だ。だからどこかに行きたい。でも金はない。現実は厳しい。しがらみも多い。弱みをみせたら終わりだ。そういうお先真っ暗な現実がほんの数日の出来事にどばーっと描かれる。スクリーンから一瞬たりとも目が離せない。でも、こいつらがどうなるのかなんて、映画を最後まで観なくてもわかってる。

そう、どうなるかはもうわかってるのだ。わかってて、その通りに135分が過ぎていく。それでもやっぱり気を抜くことが出来ない。希望はない。映画的な優しさもファンタジーもない。ヒーロー?なんだっけそれ?

つまりは、そういう映画だ。なんで最高だと思うのか?たぶん本当に怖かったし、嫌だったから。どんなモンスターよりも、あの風景が怖い。あいつらの絶望が怖い。俺もあいつらも変わらないじゃんと思うのが怖い。怖いし嫌だ。そういう映画なのが本当に素晴らしい。