「オカルト」

水曜日。ユーロスペース白石晃士監督「オカルト」。
昨日で上映は終わってしまったんだけど、こんなに面白いのにレイトショーで3週間だけというのはもったいないんじゃないか・・・という映画だった。

この映画はフェイクドキュメンタリーである。3年前に起こった通り魔殺人事件を追うドキュメンタリー映画監督(白石晃士監督本人)が、事件の生存者と関わるうちに徐々に秋葉原事件を思わせる(でも脚本は事件の前に書かれていたそうだ。)ネットカフェ難民の無差別殺人へと巻き込まれていく。

フェイクのインタビューとそこに入るスーパーが絶妙で「それっぽい」ので、怖いというよりも笑ってしまう。特に主役であるフリーター江野がいいキャラ過ぎてあっという間にこの「フェイク」に引き込まれる。関西弁と、微妙な弱気と、いかにも嫌われそうな無神経さを持ち合わせた30過ぎの男が「クソみたいな人生」とカメラに向かって語るとき、この映画は単なるホラーというよりも、本当に現実と地続きのホラーとしての力を持ち始める。

そして、笑いと、キャラ(助監督もいい感じ)と、そんなアホらしさの中で大真面目に演技する黒澤清(本人役)、渡辺ペコ(本人役)などを見ているうちに、徐々に観客は江野の側にいる。これはカメラを持つ白石監督も同様である。

渋谷のあそこでXXXXXしたい!って実は結構な人が思ったことがあるんじゃないかな?(映画のチラシにもそう書いてあったし)その夢をかなえる(?)という意味でも、映画として素晴らしいんじゃないかと思う。映画とは充足不可能な欲望の代替手段でもあるわけだし。

しかもラストの付けたしが素晴らしい。蛇足とも取られかねないこの勇気あるラストシーンが、「ちょっと面白かったねー」というレベルからこの映画を遠ざけていて、好きな人にはたまらないファイティングポーズに思えるのだ。その分だけ「太陽を盗んだ男」も超えてると言ってもいい気がする。


『オカルト』白石晃士監督インタビュー