「ウォッチメン」
土曜日。新高島109シネマズで「ウォッチメン」。
これはもう、去年見た「ダークナイト」級の衝撃というと大袈裟かもしれないが(いや、大袈裟でないような気がする)、ただただその世界観に圧倒される。深いとか浅いではなく、映画とか文学とかグラフィックノベルとかのジャンルの議論でもなく、ひたすらに一つの世界が構築され、それが物語のなかで成長していく。しかもその世界は一切の妥協なく「現実」に依拠している。何かは何かを象徴していて、しかもその「何か」のオーバークラスが現れて「何か」を語ることをあっという間に陳腐化してしまう。これが2時間40分の間、全くダレることのない映像と音楽で展開していくのだから興奮しない訳がないのである。
「スーパーヒーロー」の物語は、「ウォッチメン」という世界の中で一旦地に引きずりおろされる。しかし「ウォッチメン」という物語はまた、「米ソによる核戦争の恐怖」という80年代の現実の中で現実に引きづりおろされる。更にはその現実の中で蠢く人間(あるいはスーパーヒーロー)の営みは、Dr.マンハッタン的超人間的な観点から否定(あるいは肯定)される。
ニコちゃんマークを付けながら嬉々として人を殺すコメディアンは「フルメタル・ジャケット」のジョーカーのようでもあり、バットマンのジョーカーのようでもある。バットマンにしか見えないナイトオウルは、コスプレ変態さんとして描かれるし、シルクスペクターも異様にイヤらしい女だ。Dr.マンハッタンは破廉恥なまでに全裸であり、ロールシャッハは狂人である。なんという素晴らしいコスチューム・ヒーローたち。全部が全部、我々のようじゃないか。
虚構はもっと大きな虚構によって隠される。正義は巨大な正義(もしくは絶対の悪)によって包みこまれる。つまり「誰がウォッチメンを見張るのか?」の答えは、実のところ初めから明らかなのだ。
コスチューム・ヒーローものの持つ、根本的な物語的不誠実さを逆手にとって、完璧なまでに誠実な物語を作ってみせたアラン・ムーアというのは今更ながらスゴいんだと認識した。原作を読むのは俺の義務だとまで思う。そしてこの映画を超えるヒーローものって・・・もう不可能なんじゃないだろうか。それくらいに凄い。
あと、ロールシャッハの役はジャッキー・アール・ヘイリー、ナイトオウルはパトリック・ウィルソンという「リトル・チルドレン」の俳優二人が出ていた。性犯罪者から、そしてケイト・ウィンスレットの不倫相手からスーパーヒーローへ。すごい振幅である。映画の中で一番かっこいいのは文句なしにロールシャッハ。
全編を彩る音楽も素晴らしい。ディランの「時代は変わる」、レナード・コーエン「ハレルヤ」、ジミヘンのディランカバー「見張り塔からずっと」、マイ・ケミカル・ロマンスのディランカバー「廃墟の街」(ちょっとコレは頂けない感じだったけどね)。特に「見張り塔からずっと」のイントロの瞬間はゾクっと鳥肌がたった。
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