グレッグ・イーガン/TAP

TAP (奇想コレクション)

TAP (奇想コレクション)

河出の奇想コレクショングレッグ・イーガンの「TAP」読了。

「新・口笛テスト」
1960年代に某レコード会社が、「ロックンロールの反感を持っているであろう保守的な年寄りが、いちど聴いただけでそのメロディーを口笛で吹けたなら、その歌はレコード化する価値がある。」という方針のもと、会社の掃除夫のおじさんに曲を聴かせていたという「口笛テスト」から着想された作品。これ、去年で言えば破壊力抜群だった「崖の上のポニョ」を思い出す。頭の中をぐるぐるめぐるメロディには、科学的な法則があるのかもよ・・という話。そしてそれはメッセージ=強力な広告になる。

「ユージーン」
宝くじとバイオテクノロジーと時間SFの幸福なミクスチャー。主人公の夫婦がとってもいじらしい。

「銀炎」
科学/宗教/人間の弱さ。「現実」を読み解くときに、我々には二つのやり方がある。。ひたすら数式を積み重ねて答えを出そうとするやり方と、なぞなぞに答えるかのようにウソで答えを出そうとするやり方。イーガンは徹底的に後者を否定する。だけどイーガンの小説が宗教批判の論文ではなくちゃんと「小説」になっているのは、そこにある人間の感情を丁寧に拾われているからだと思う。

「TAP」
言語/感情。テクノロジーにより今よりも高次の言語が可能になったとき、我々はどうなるのか?何を理解するのか?という話。こういう夢想を大真面目に考えているイーガンの小説はページの隅々から生き生きとした楽しさが溢れてきて、読んでいてもともて楽しい。

他にもホラー風味の小説がいくつかあったり、バラエティに富んでいる。イーガンを読んでいる時が一番幸せだ、ということを再認識した。