スプーク・カントリー

スプーク・カントリー (海外SFノヴェルズ)

スプーク・カントリー (海外SFノヴェルズ)

木曜日に猛烈な腹痛と吐き気に襲われて、一日臥せっていた金曜日。ウィリアム・ギブスンの「スプーク・カントリー」読了。

ギブスンはサンバーパンクの教祖であり導師であり、かつ異端でもあるので、この小説もやはり「ああ、ギブスンの新作を読んでるなあ」と思うところもあれば「この小説をSFとして紹介された人はどう思うんだろう?」というくらいSFじゃないのでそこが面白い。登場人物たちはすぐGoogleするし、Wikipediaで調べるし、データの受渡しはiPod nanoなのだから。新しいテクノロジーはほとんど登場せず、臨場感アートにしても既存の技術のマッシュアップでしかない。なのに、純然たるサイバーパンクを読んでいるという気になってしまうのは、やはりギブスンの語り口が魅力的過ぎるからだろう。

90年代カルト・バンドのもとヴォーカル、中国系キューバ移民の少年チトー、ジャンキーのミルグリム・・・3つの視点が目まぐるしく切り替わりながら、結局のところは2時間程度の映画にきっちり収まりそうな逃走と追跡の物語が展開される。そこは余り複雑じゃない。肝心なのは物語ではなく、その物語を彩る固有名詞(リバー・フェニックスフィッツジェラルドAPCのコート、モリッシーバロウズジョニー・デップ・・その他諸々)とそこから広がるイメージなのである。それらポップカルチャーマッシュアップと、911、そしてイラク戦争をひとつの小説にしてしまうのがこの小説。

恐怖に関する戦争。みんなはまだあれをそう呼んでいるのだろうか?わたしもそれを持っている。ー恐怖を。いまスターバックスで、この手にそれがある。自分の電話と、そこから外に伸びるネットを信用するのが怖い。ネットは外へ伸びて、ハイウェイから見える不気味なまがいの樹木に張りわたされている。携帯電話のアンテナ塔がグロテスクなにせの枝、立体派風の歯むら、アール・デコ風の球果、まばらな森、見えないグリッドを支えている。