トウキョウソナタ

日曜日。恵比寿ガーデンシネマ黒沢清トウキョウソナタ」。

黒沢清の映画にはああリアルだなあと思わせる人間の表情/感情と、それは違うだろ、と思わせる唐突な世界の描写が混在していて、その混ざり具合がとってもスリリングで面白いのだけど、この映画はその交錯具合とリズムが実に絶妙でよかった。

リストラは厳然たる「リアル」なんだけど、そこにいたる冒頭の描写とか、その後のハローワークとか、食料配給とかの風景がホラー映画のようなこの世のものならぬ怖さを放っていて、この飛躍っぷりが実に素晴らしい。飛躍と言えば「米軍に入隊するお兄ちゃん」というのも良かった。家族は助け合ってるのか?それとも互いを見つめて呆然とし合っているのか?ということが、突然目の前に突きつけられるような展開。弟のピアノは唯一のファンタジー蜘蛛の糸)になっているのだけど、実はピアノのパートは全部夢で、香川照之は車に弾かれてて死んじゃってて・・・とか考えると、もうどうしようもない絶望の映画なんだけど、ちゃんと役所広司とか(すげえおばちゃん達がウケてた)、井川遥とか、何らかの脱出口は暗示されるわけで、そう考えると朝焼けのシーンの美しさというのは本当に素晴らしいなあと今でも思うわけです。

配給の列にふっと紛れ込んでしまう津田寛治のシーン、清掃員のおっさんたちがショッピングモールに展開していくシーン、そしてプジョーに乗った小泉今日子がモールから出て行く瞬間に追いかけて横に動くカメラ・・・このあたりが素晴らしかったと思うシーン。

あと、映画を見終えた後、妻には「リストラされたらちゃんと言ってね」と言われたことをご報告しておきます。