フジロックフェスティバル '08 7/25

フジロックフェスティバル '08。苗場で開催されて10年目。僕はといえば99年に初参加して以来、2006年に行かなかっただけで後は毎年2日もしくは3日全部を見に行っているので、9回目のフジロックということになる。今年はMy Bloody Valentineが出るという時点で行く決意がすぐに固まったし、宿もオフィシャルのツアーに友人が申し込んでくれたので、みつまた地区ではあるけれども早々に決まり、直前にドタバタしないで済んだ。
 初日。この日は妻の仕事の都合もあり、また深夜のShing02を見たいということもあって、午後遅くの会場入りとなった。14:32の東京発、15:49越後湯沢着。その後シャトルバスに乗って宿まで行く。雨が降っていたのでしばらく宿で休み、止んだあたりで再びシャトルバスに乗って会場へ向かった。18:00過ぎに会場入り。こんなに遅く入ったのは初めてである。

Galactic featuring Chali 2na(of Jurassic 5) and Boots Riley(of The Coup)

ホワイトステージでGalactic。以前もフジで見ているんだっけ?このバンド。今回はラッパーが2組ゲストで登場して、新作のアルバムと似たような構成。これが見事にハマッて、かなり盛り上がったんじゃないでしょうか。演奏がいいのはもはや当たり前なんだけど、Chali 2naの重低音ラップは腰にくる感じだし、相棒の彼の弟君?はまんまるに太って毎日ピザばっか食ってそうな感じでかわいいかった。Boots Rileyはアクション含めてかなり盛り上げて、"hustle up"とかは会場がまさに沸騰した感じ。予想通り最後は3MCでガンガンに攻めて盛り上がって終わり。いやー着いてそうそう、いいものを見た。

My Bloody Valentine

「偉大なるアマチュアリズムの奇跡」と言ってしまうと語弊があるかもしれないが、徹頭徹尾このバンドは奇跡である。

21:30。メンバーが登場して(ベリンダかわいい。。)、最初の音が鳴った瞬間にそう思った。たいていの場合、奇跡とは再現が困難なものである。なのにこのバンドは、あの奇跡のような音をレコードに閉じ込めることに成功してしまった。それはプレイヤーにかければ何度でも再現できるものとなった。それが1991年のことで、それ以来、あれを聴いてしまった人も、そしてバンド自身も、「次の音」を出せずに時が過ぎた。ケヴィン・シールズprimal screamでギターをひいたり、lost in translationで映画音楽を作ったりしながら、傍から見る分にはまるで余生を過ごすような活動ばかりしてきた。

そしてこの再結成ライブだ。一体どんな再結成になるのだろう?などと思いを巡らす必要はない。あれから一歩も進んでいないのだから、ライブもまったく同じに決まっている。そしてまさに「パッケージされた奇跡」はそのままの姿で再現されたのである。ボーカルはボンヤリとさまよい、ギターはノイズ、もしくはキラキラとした音で空間を満たす。リズム隊はドタドタしたロールや勤勉なベースと、打ち込みの音が交互に現れる。。メンバーは進化も退化もしていない。それどころかまるでアマチュアのようにぎこちなく淡々と演奏をするのみ。僕はステージに集中し、全身でノイズのシャワーを浴びるように、その演奏を聴いた。正確には音をまるで捜索するように聴いた。美しいメロディは宅急便のように配達されるのではなく、自ら探しにいかないと聴こえて来ない。

1曲目の"I Only Said"が始まった瞬間にふわっとなり、"soon"でドラムからギターが鳴る瞬間、なんとも形容し難い感情に襲われた。あの頃、ヘッドフォンでこの轟音を鳴らせば、世界が夢のように揺らいで見えたものだ。いや冗談じゃなくマジで。

そして最後に"you made me realise"。ノイズだけが鳴らされるパートはたっぷり20分以上はあったと思う。フジロック史上、もっとも不快な時間だったかもしれない。事実、グリーンステージの後方ではブーイングもあったらしいし、モッシュピットから耳を抑えながら出ていく人もたくさんいた。ヘッドライナーだから・・というだけで盛り上がろうと思っていた人たちにはたいへんなライブだっただろう。アマチュアだと感じたのは、そういう部分である。マイブラに、レコードを聴いたこともないような人を巻き込むようなパワーは無い。(ADFとかプライマルにはそういう地力がある)信者だけが楽しい。信者だけがあのノイズを快感だと言って受け入れてくれる。そしてノイズからメロディーが立ち上がる瞬間、まさに宗教的といっていいカタルシスが襲う。そこに意味はない。

潔いまでに、新しいことはなく、「奇跡の再現」だけ。でもそれで僕には十分。決して変わらない過去の美しさにうっとりしたっていいではないか、と開き直ることは簡単だ。だけど我々が生きるのが過去ではない以上、新しい音を探しに行くことも必要だろう。そう思いながらも、それでもこの夜にただ感謝した。

Grandmaster Flash

円熟の極みのスクラッチ芸人による深夜のパーティータイム。カウスボタンとか、阪神巨人とか、やすきよとか、そういう感じ。こする。MIXする。とにかくアゲる。"make some noise!"と何度叫ばれただろう?いやー眠さの極限だったけど、夜中のテントっていいな・・・と思いながら見た。PAブースの前でぐーすか寝てるコがいて、なんという贅沢な睡眠だろうと思った。

Shing02

うん、この人は言葉本来の意味でカリスマである。揶揄でもなく、皮肉でもなく、本当にカリスマ。真摯に音楽と向き合い、スキルを高めて、まるで宣教師のようにリスナーに音楽を教える。享楽的なはずの深夜のダンステントが、このライブの間だけは特別な覚醒した時間となった。その昔パティ・スミスがここでライブしたときと同様に、力強い言葉の奔流にやられ、泣きそうになった。"長いものはぶった切る/出る杭は打ち返す/芸術で訴える"。いやー、すごいよやっぱ。こんなこと出来る人、なかなか他にいないと思う。

5:00始発のバスに乗って宿に帰った。早朝の苗場を見るのは初めて。眠かったが奇麗な朝だった。