「レスラー」

日曜日。シネマライズで「レスラー」。
なんでもないシーンのひとつひとつが素晴らしい。最初のミッキー・ロークの後ろ姿で始まるシーンから、プロレスのシーン、スーパーでお惣菜売り場で働くシーンでも、グッズ販売しているシーンも、カメラはぴったりと彼の後を追い、我々に彼の生活と人生を見せつける。ミッキー・ロークの肉体はたくましく、ボロボロで、言葉よりも多くのことを語る。マリサ・トメイの裸も美しく誇り高い。

この映画は悲劇でもなければ喜劇でもなく、もちろんファンタジーでもない。まるでドキュメンタリーのように、ランディの人生が描かれる。新しい家族も、かつての家族との和解も、全ては儚い。人間はそう簡単に変わらない。ましてや、歳をとってしまった人間は、なおさらだ。

「俺にとっては外の現実の方がつらい」というランディの言葉と、そこからリングに向かっていくところ、観客たちの拍手、歓声、笑顔、ド派手に鳴る入場の音楽(ガンズの"Sweet Child O'Mine")・・・声を出して泣いたんじゃないかと思うくらいに涙が出た。(今でも思い出すだけで泣きそうになってしまう)そして静かに流れるスプリングスティーン。完璧。

そう、完璧だ。完璧に人生は美しい。だけどそれは「映画のように切り取られた人生は」が美しいのである。現実はつらく惨めで、ラストシーンに絶妙のタイミングでスプリングスティーンが流れてくれたりはしない。ただ、そんなことはよーく分かっているから、みんなはこの映画に泣くことが出来るのだと思う。ファンタジーはない。絶望としかいいようのない状況だ。それでもランディは笑い、戦い、リングへとダイブする。それが「やるべきこと」だと知っているからだ。

俺が「やるべきこと」はなんだろう?そう自問せずにはいられなくなる。幸せになるためや、不幸から逃げるためではなく、やるべきことをやる。大袈裟でなく、これから先の人生で、何度も思い出す映画になると思う。